第一章 魔物を操る少女と水道魔導器  第二十六話

「で、私はどこから話せばいいのかな?」



ラゴウを追って船に強引に乗り込み、後にその船は沈没する事となったのだが
無事に難を逃れる事が出来た一行はフレンが用意してくれた船の一室を借りてくつろいでいる。
沈没の際にユーリが助けたヨーデルというエステルと何か関係がある貴族のような高貴な雰囲気を持つ彼のことはトリム港につき次第フレンが話してくれるそうなので まずは目の前のの問題についてだけでも解決しておこうと場が作られる。
後で話す。と言ってしまったからにはも正直に話さないわけには行かないので
冒頭に戻る。といったところだ



「あたしはバカドラと話してた変な言葉について知りたいわ」

「オレは情報屋ってのが気になるな。銀色の鳥となんか関係あるわけ?」


出てきた質問は二つ。
他にもないかと見回してみるが、エステルとカロルは特に聞きたい事項がないらしく首を横に振った。


「ユーリの話は長くなりそうだから リタの方を先に話すね
 私があの竜使いと話してたのは古代の言葉で今はもう話されてない言葉らしいよ」


「どうして、は喋る事ができるんです?」


「私の親から役に立つから覚えておきなさいって言われて叩き込まれたの」


「うわぁー・・・・・・なんか、大変そうだね」


学習に関してこれっぽっちも興味が無いユーリはカロルの呟きに同感だった
強制的に勉強をさせられたところで全く持って楽しさがわからない
けれども、本好きなエステルやリタは目を輝かせてを見ている
きっと自分の知らない言語を話す事が出来るということが羨ましいと同時に自分も扱いたいとでも思っているのだろう。



「つーか、よく竜使いに古代の言葉が通じるなんてわかったな」


「あー・・・・・・それは、ほら・・・・・・あの竜って、竜使いによく懐いてたみたいだし
 魔物使いの常識ってやつで、知能を持った魔物となら古代の言葉で話す事が出来るから
 あそこまで仲良しさんだったら話せてるのかなー、なんてね」


始祖の隸長について伝えてはいけないだろうと感じて、は苦し紛れに始祖の隸長を魔物と言い換えてユーリにそのわけを話した。
真実の中に盛り込んだ嘘だったので、少しだけ納得した。といった表情でユーリは生返事を返してきた


「んで、最初のユーリの質問に戻るけど
 えー・・・・っと、情報屋ってことは完璧にありえません!・・・・てのは」

「フツーに信用できねぇな」


「ですよねー」

「アスピオ行くときに銀色の鳥と話してた『SU』ってのにも何か関係あるんじゃねぇのか?」


アスピオへの道中に首領への報告をした。
その時にユーリとラピードが盗み聞きをしていたという事は後日判明した事だが
まさか一番初めから聞かれているとは思っても見なかったは己の不甲斐なさに心の中でそっと涙した。


「・・・・・・誤魔化しても無駄、か」



ユーリたちを信頼できないというわけではない、けれどもこれは首領から強く言われている事だ
知らない人間に不用意にギルドの事を話してはいけない

ユーリにエステル、ラピードにカロル。そしてリタ
きっとこの人たちならギルドのことを話しても悪いようにはしないだろうし
口止めをするように言いつけておけば、誰かにべらべらと話すということはないだろう



「今から、五大ギルドの首領と幹部および帝国騎士団の上層部しか知らない機密事項を話すから
 他言無用、口外禁止 誰かに話したら『蒼空の配達』が殺しに来ると思ってて」


「な、なんか いきなり物騒な話じゃない?」


「最後のは冗談だけど、それだけ重要ってこと」


「なんだー・・・・・・びっくりした」



カロルが安堵の溜息を吐き、も一拍を置いてから口を開いた



「私が所属しているギルド『蒼空の配達』は運送業をしているというのが表向きの顔で
 本当は『空翔る統率者』、通称『SU』と言って情報ギルドとして活動してるの
 だから仕事先で何か情報があったり変化があったりしたら首領に報告する義務があって
 ユーリが見たっていう銀色の鳥は首領の召喚している鳥でそれを使って首領に報告するの」


「召喚・・・・・・?
 魔物を服従させているとかじゃないの?」


聞きなれない単語にリタが突っかかってくるが、銀色の鳥については自身もよくはわかっていないので
頭をひねらせて上手い言葉がないかと模索する


「なんというか、私もよくは聞いてはいないんだけど服従の陣をつかったのとは違うみたい」


「つまり銀色の鳥とギルドの奴ら使ってお前の首領が世界の情報を占有してるってことか」

「そういうこと。
 『SU』について知っている人相手だったら報酬しだいで情報提供や知恵貸しやらもやってる」


「それって、がものすごく物知りだということです?」


エステルが目を丸くしてを見るが、それはない、ない。といって笑ってみせる
情報屋ギルドといえどもあるのは報告の義務ぐらいで、特権といえば無報酬で情報が聞けるだけだ
世界中の情報がわかるといっても、まさか自分の頭に全てそれがしまわれているなんてことはない



「私が世界の情報全部知ってるってわけじゃなくて
 ギルドの皆からの情報を集めている首領が全部記憶しててくれてるの
 だから、私達は情報を求められたら銀色の鳥を呼んで鳥を通して首領から情報を聞いて依頼者に教えるの」


「世界中の情報を狂い無く覚えてやがんのか?」


「首領は・・・・・・・ある意味魔物よりたちの悪い化け物だと思うよ」


の脳裏に思い浮かぶ全てを突き刺さすような鋭い眼差しが甦り身震いをする
しばらくの間 音沙汰なしでいたために相当怒っているかもしれない
トリム港についたら誰かギルドの仲間を探してすぐにでも謝ろう。と心に誓う


ボォー


低く長い汽笛がビリビリと空気を震わし、やがて音が止まる
窓の外を見てみると明るい空の下に広がる活気あふれる港街が広がっていた


 

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