第一章 魔物を操る少女と水道魔導器  第二十四話

「ったく、なんなのよ!あの魔物に乗ってるの!」



ラゴウの屋敷を抜け出してすぐ開口一番にリタが愚痴を飛ばした
最後尾にいたにも愚痴が聞こえて、なんだか馬鹿にされた気がしたので
む、と唇を尖らせた


「魔物使いに対する偏見は良くないよ」


「あれが、竜使いなんだろうね」


「竜使いなんて勿体無いわ!バカドラで十分よ!あたしの魔導器壊して・・・・!」


の反論も諸共せず、現在のリタは魔導器が壊された事により
すっかり頭に血が上ってしまっている


「バカドラって・・・・・・それに、リタの魔導器じゃないし」


「それにしても、どうして魔導器を壊したりするんでしょう?」


「確かにな
 、お前あいつと変な言葉で話してたみたいだけど聞いて無いか?」



変な言葉とユーリが言ったのは竜使いとの会話で使用した古代語のことだろう
そのように聞くということは、言語を理解していないという事だ
リタに視線を向けてみるとリタでさえも古代語は知らなかったのかの言葉を待っている


竜使いから聞いたのは一言だけ
その情報が正しいものだとは限らないが、情報として伝える分にはあまり意味を成しそうに無い
それに、古代語で答えたということは現在の言語を理解していないか他の者には聞かれたくないからに違いない

なんとなくだが、には後者な気がしている
相手の意図を汲み取る前に姿を消されてしまったので、今となってはその真相を確かめるすべは無いのだが



「あー・・・なんていうかね、壊したいから壊してるんだって」


「何よそれ!?
 魔導器にそんな扱いするなんて今度会ったら絶対ぶっ飛ばす!」




完全に怒りが頂点に達しているリタには誰も手がつけられないとユーリは苦笑した
唯一、この状況がいまいち良くわかっていないユーリの足元に縋りつくようにしているポリーと目線を合わせるようにユーリがしゃがみこむ


「ひとりで家まで帰れっか?」

「ラゴウって悪い人をやっつけにいくんだね」

「あぁ、急いでんだ」

「だいじょうぶ、ひとりで帰れるよ!」

「いい子だ」


ポリーの頭をぽんぽんと撫でてやると、ポリーはくすぐったそうに笑ってから
皆に手を振って自分を待つ両親の元へと走っていった。


「エステルどうしたの?」


ポリーに手を振り替えして見送っていたエステルの表情がいつもと違い硬い表情をしておりカロルがその事を指摘した。
自分の表情がいつもと違うなど思っても見なかったエステルは目を丸くして驚いたが、その表情はすぐに不安げなものへと変わった



「わたし、まだ信じられないんです
 執政官があんな酷い事をしていたなんて・・・・・・」


「よくあることだよ」
「うん、よくあるね」


「帝国が ってんなら、この旅の間にも何度か見てきただろ?
 つか、のんびりしてたらラゴウの奴が逃げちまうから急ぐぞ」






を先頭に屋敷の裏へと走ると、大きな船が帆を張り今まさにこのノール港から離れてしまうというところだった。


「あたしはこんなところで何やってんのよ」


「行くぞ・・・!」

「ちょっと待って待ってー!まだ心の準備が!」


おそらくは船に乗るときに使用されるであろう階段を駆け上り、先頭のが足を止めて方向反転をすると
バレーの構えのようにして姿勢を低くして両手を組んだ


のすぐ後ろにいたリタが勢いをつけてに飛び、組んだ両手に片足を乗せた
ぐん、と腕を上へと上げてリタの跳躍の加勢をする

カロルを脇に抱えたユーリとラピードは己の力だけで船に飛び移るだけの自信があるようでの傍を通り過ぎ船へと飛んだ
最後尾を行っていたエステルが追いつき、リタの真似をするようにしての組まれた両手に飛んで足を乗せ の作った勢いで船へと飛んだ



、急ぎなさい!」



船の甲板からリタが声を張り上げて呼ぶ、先ほどよりかなり船が離れている
その速度はまるでラゴウの焦りをあらわしているようだった。
は少しだけ助走をつけて躊躇い無く飛んだ

どう考えてもその飛距離では船に追いつく前に海へと落ちてしまう



「あの馬鹿・・・・・・!」

「「!」」


エステルとカロルが悲痛にの名を呼んだ
答えるようには自分の右手を振った。その表情は心配いらないと物語っている


「魔導器展開 翼の陣」


右手から現れた光が翅を形作り、は慣れたように翅を動かして船の甲板へと着陸する
着陸と同時に翅を消すとリタが魔導器に無理させるな!と怒号を浴びさせ
エステルとカロルは心配させないで、と切実な表情で訴えてきた。
3人の対応にあたふたとしているとユーリが甲板の隅に無造作に置かれた魔核を手に取った


「これって、魔導器の魔核じゃねぇの?」


ユーリの言葉に真っ先にリタが振り返り床に散らばった魔核を泣きそうな目で見つめる
魔導器好きな彼女にとって、魔核がこんなにも雑な扱いを受けているのが見るに耐えないのだろう


「なんでこんなに沢山 魔核だけ?」


「知らないわよ、研究所にだってこんなに数そろわないってのに!」





「まさかこれって、魔核泥棒と関係が?」


「かもな」

「“まさか”とか“かも”とかじゃなく、間違いなくそうだと思うけど?」



「けど、黒幕は隻眼の大男だよ。ラゴウとは一致しないよ」

「あ、そっか」



ラゴウのなりを思い出してみると、隻眼ではないしましてや大男でもない
シャイコス遺跡でユーリたちが手に入れたという情報とは全く一致しそうも無い



「だとすると、他にも黒幕がいるってことだな
 ここに下町の魔核混ざってねぇか?」


ユーリの言葉に従ってリタはもう一度魔核を一瞥し首を横に振った


「残念だけど、それほど大型の魔核はないわ」


「ウー・・・・・・・」


リタの言葉に被るようにして、ラピードの唸り声がする
はっ、として周りに警戒をしてみると ラゴウが雇った傭兵が数名取り囲むようにして姿を現した


「こいつら、やっぱり五大ギルドのひとつ『紅の絆傭兵団』だ」

「そんな大きなギルドがどうして・・・・・・」


「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと片付けるぞ!」



襲い掛かってきた傭兵はたいした強さではないのか、ユーリはその攻撃を軽々とかわし


「蒼波!食らえ!」


青い波動を放つ蒼波刃に続けて、剣を地面へと突き刺しその衝撃波で敵を退ける
流れるようにコンボを叩き込まれた傭兵はまともにユーリの攻撃を受けてしまい甲板に倒れた


「ささやかなる大地のざわめき―――ストーンブラスト!」


残る二人の傭兵はリタの放った地の魔術の石の礫の餌食となり気を失った。
あまりにもあっけなく終わったのでカロルがなんだか拍子抜けだね。と呟きもそれに頷いた
五大ギルドの一つであればもっと手強い相手なのだと思っていたのだが
どうやら相手をしたのは随分としたっぱの部類なのだろう、一方的な戦闘となって幕を閉じた


 

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