第一章 魔物を操る少女と水道魔導器  第十九話

「相変わらず、じっとしているのは苦手みたいだな」

「人をガキみたいに言うな」


リブガロは街の南方にある森にいるという情報を手に入れて、街を出ようとしたとき
ちょうど街へと戻ってきたフレンとすれ違う事になった。


「ユーリ、無茶はもう・・・・・・」

「オレは生まれてこのかた、無茶なんてした事ないぜ
 今も魔核泥棒を追っているだけだ」

「ユーリ・・・・・・」

「おまえこそ、無茶はほどほどにな」


それだけの会話で十分だと感じたのか、ユーリは軽く手を振ってフレンに別れを告げると先に行ったカロルやリタたちを追って街から出て行く
もフレンに軽く会釈をしてからユーリの後をそそくさと追いかける

ユーリの隣に並んで歩き、ユーリを見上げる


「よかったの?あれだけしか話さないで」

「いいんだよ」

「いいのか」

「いいんだって」

「ならいいや」


ユーリから視線を逸らしては前を行くリタに追いつきとりとめの無い話をし始める
残されたユーリは変な奴だな。と足元を歩く相棒に話しかけた















しばらくの間、雨の中を進んでいたのだが歩いているうちに雨脚が弱まり
ついには降り止みどんよりと重苦しい雲だけが空に残されることになった



「雨、やんだな」

「でも晴れる様子はありませんね」

けれども、いつ振り出してもおかしくない空というほど暗い雲ではなく
ただ空を覆っているだけでもあるのでもしかしたらこのまま晴れてしまうかもしれない


「これじゃ、リブガロ見つけるにも見つけれねぇな」

「明日の朝には天気が変わっているかもしれないわよ」

「そうかもだね 今日はもう休もうよ」


「・・・・・ま、明日が雨になるとは限らないけど」


リタって意地悪だよ。と呟くカロルにリタのチョップが炸裂しカロルは頭を抑えて蹲る


「と、とりあえず テント張ろっか」


の提案に全員が賛成をし、野宿をする為の準備へと取り掛かった










野宿の準備が終わり、夕食を食べ終えてのんびりと過ごしているとの隣にリタが腰を下ろした
は針仕事の手を止めてリタの表情を伺う


「どうかした?」

「魔導器。今ぐらいしか見てあげれる時間なさそうだから」


なるほど。と納得しては手袋を外して、リタに手の甲に埋められた魔導器を見せる
リタはの手をとってじっと眺めてからある程度の知識がある魔導士が扱う事が出来る術式を展開し魔導器の解析を始めた

けれども、リタにとってはのつけている魔核に刻まれている術式は始めてみるもの
解析するにしても思うように作業が進まず、何度もリタは作業の手を止めてはじっくりと観察する素振りを見せている
リタがそうしている間、動く事が出来ないのでもおとなしくリタの作業を見入っている
そんな二人の様子に興味を持ったのか、ユーリが寄ってきて二人の顔が見れる位置で腰を下ろした


「治せそうか?」

「わからない。見た事無い術式だから・・・・・完全に治すには解析しないことには」

「つか、魔核って今じゃそんなほいほい作れる品じゃないんだろ
 魔核に入ったヒビなんて治せるのか?」


魔導器から目を離し腕を組みながらリタはユーリが望む答えを選び出し
ユーリとの顔を交互に見ながら話を始める



「ヒビが入る原因は術式が壊れているからよ
 それさえ修復する事ができたら魔核のヒビも自然と消えるわ」

「だから解析しないとダメ、ってことか」

「そういうこと」




「でも、リタが知らない術式なんてあるんだね」


アスピオの天才魔導士というリタの二つ名は伊達ではない
その手の分野に手を出している人物ならばリタ・モルディオと聞けば、誰でも知っているという名前だ
リタ自身でさえも自分が見た事の無い術式など無いと自信を持ち言い張っているので本来ならば自分が知らないものになど出会うわけが無いのだ



「そういや、エフミドの丘でも術式がおかしいとか言ってなかったか?」

「エフミドの丘?」



自分が知らない間に何があったのだろうか。と気になりはオウム返しにユーリとリタに尋ね返す
そういえばあの時にはがいなかったのだと思い出した二人は当時の出来事を思い出して
互いに肩を竦めあった


「え、何? 何があったの?」



「あぁ、えーっとね。
 エフミドの丘にある結界魔導器の術式がめちゃくちゃで
 それもね あたしが見た事無い術式だったのよ」

「へー・・・・・・めちゃくちゃって言うと?」

「詳しく解析出来なかったからなんとも言えないかな」



まさか。とには思い当たる節があったが決定打にかけているので
生返事だけをして頷くだけにしておいた


「その時の術式との魔導器は同じじゃねぇのか?」


「似てる気もするけど、ちょっと違うかも・・・・・・
 いったい、こんな魔導器どこで手に入れたの?」


「どこ、って・・・・・・ギルドに入るときに首領に貰ったんだけど」

「首領の名前は?」

「・・・・・・ごめん、それは勘弁して
 首領に誰にも言うなって口止めされてるから」


「怪しさ満載じゃねぇか」



じと目で見てくるユーリに、は口を尖らせて
自分の命が惜しいの!と言い返し逆にユーリに笑われる破目となった




「つか、出来るだけ早く切り上げて寝ろよ 明日も早いんだから」



「わかってるわよ」

「おやすみねー ユーリ」


 

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