第一章 魔物を操る少女と水道魔導器  第十七話

フレンが出て行ってしまってから、海が荒れている為に船の手配という唯一するべきことさえも消えてしまい
やる事がこれといってなくなってしまっていたはこのままこの部屋に居座り続けていいのだろうか、と疑問に思っていた。

ギルドの仲間を探す、というのも一つの手なのだが
ここ、カプワ・ノールは帝国の圧力が強く、執政官の評判も良くない
こんなところに好き好んで居残り続けるギルドの知り合いなど、生憎には誰一人として思いつかない

自分の持つ魔導器の魔核にヒビが入らなければ、首領への報告一つにこれほどまで苦労する事は無いのに。と溜息をついた
それもこれも、ハルルで魔物を一人で大量に相手をしたせいだ


「だめだ、やっぱり騎士団のやつら 嫌いかも」



やる事を決めたのは己自身なのだが、結果的に見ると騎士団を助けるがために魔核に傷が入ってしまったとも考えられる
なんだかんだ言って、自身は己の身が何より大切で何か悪い事があればすぐに他の者のせいにしてしまう
そんな自分自身の責任を未だに受け止められてない子供っぽさには再度溜息をつく



「人を助けるの、やっぱ 私には出来ないよ」



とうに冷めてしまっている紅茶を一口飲み、はソファから立ち上がった
宿屋で待機するにしてもいつまでも人様が借りている部屋に留まるわけにはいかない

どうせなら、ユーリたちが追いついてくるまで宿屋でゆっくり過ごしていよう
そう考えたは、宿の部屋を取る為にフレンが借りている部屋からロビーへと足を運ぶ
ちょうどその時、フレンが見覚えのある桃色の髪をしゆったりとした清楚な服を着ている少女の手を引いて宿の中へと入ってきた



!ここにいたんですね!追いつけてよかったです!」



エステルはフレンから離れての元へ駆け寄ると両手を掴んで握手をする
突然の事でも驚いたが、それ以上にフレンがエステルとが知り合っていたことに驚いている


「エステリーゼ様も、を知っていらしたのですか?」

「はい わたしと一緒に旅をしてたんです」


「といっても、私は離脱してる事多いから
 一緒に旅したっていうならもっと最適な人がいると思うけど?」

「そんなことないです!もわたしにとって大切な仲間です!」

「な、仲間?」

「はい!」



快く返事を返してくるエステルに、は困ったように頬をかく



「あー・・・それより、ほら・・・・・・エステルってフレンと話があるんじゃなかったっけ?」


「そ、そうでした! フレン、あの・・・・・・」


「こんなところじゃなくて部屋の中で話したら?」

「そうですね。エステリーゼ様、こちらへ」


フレンがエステルをエスコートして部屋の中へと入っていく
エステルがここに来ているということは、ユーリとカロルそれにラピードもノール港についているのだろう
ロビーには姿が見当たらないので、町のどこかで出歩いているのかもしれない
外の雨は相変わらず降り続いているが、幾分か雨脚が止みかけている
これなら少しぐらい外に出てもずぶ濡れになって悲惨な事になる ということはないと判断して
は宿屋の外へと足を踏み出した。



「あれ?も宿屋にいたの?」



宿を出てすぐに声をかけられた
声のするほうを向いてみると、カロルとリタが宿屋のひさしで雨宿りをしていた



「こんなところで雨宿りなら、中に入ったら?
 それにしても、リタも一緒に来たんだね」

「何?あたしがいると、なんか不都合でもあるわけ?」


「ううん、むしろ来てくれてよかった
 魔導器の調子、見て欲しいんだけどいいかな?」


「もちろん」


約束の誓いのようにとリタはハイタッチを交わした


「あれ?いつの間にか増えてるし」


町を見て回っていたのか、一人姿が見えなかったユーリが歩いてくる
それを迎えるかのようにカロルは大きく手を振り、ユーリもそれに答えるように軽く手を振った

宿屋の前へと辿り着いたユーリはへと視線を向けた
それは船の確保できたか?と言うかのようだったので、は肩を竦めて首を横に振るう
既に返される答えがわかっていたのか、ユーリも苦笑いを浮かべて宿屋の中へと入っていく


「ちょっと、ユーリ!中に入るの?」

「あぁ、いつまでも外で待ってるわけにもいかねぇだろ?」


「それならボクたちも一緒に行くよ」

宿屋の中に入っていくユーリの後をカロルが追い、ラピードが続く
同じようにリタも続けて入ろうとしたのだが、全く動こうとしないを不審に思い首を傾ける


「入らないの?」


「ちょっと調べたい事があるからまた後で合流するよ」


「わかった。くれぐれも、魔導器を使わないようにね」

「ぜ、善処する」


その言葉を最後に、リタは宿の中へは中央の広場へと歩いていく
の言った調べたい事はまさに町に入った時に感じた違和感だった
今でもひしひしと感じるその不可思議な感じにどうも落ち着いていられる気がしなかった



「結界の中なのに、なんか変なのよね・・・・・・」



雨が振り落ちてくる空を睨みつけながら、自分の感じる違和感がなんなのか
いったい、何を自分は感じているのかと思いを巡らせる


「どうかなさいましたか?」


自分に声をかけられたのだろうか。
視線を声の聞こえるほうへと向けると、フレンとよく似た騎士の姿をした泣き黒子のある女性――ソディア――と小柄で空色の眼鏡をかけたアスピオの魔導士――ウィチル――が目に映った。

どうしてこうも、騎士団とは縁があるのだろう。と内心で溜息をついて
宿屋でフレンとの再会を果たした時にフレンの隣に控えていたこの二人に対して軽く会釈をする



「ごめんなさい、ちょっと考え事してて」


「考え事をするにしても、ここでは濡れますよ?」

「あー・・・うん、そうだね。後で戻るから、二人は先に戻っててください」


フレンからの事はしかと話されているのか、ソディアはなかなか引こうとはしなかった
それをどうにかして納得させる為にかなりの時間を割き、調べたい事があるからそれが終わったらすぐに戻る。という言葉を最後になんとかソディアを納得させる事に成功した
笑顔で二人を宿へと見送ったが、その果てしない説得劇のお蔭での表情は半ば引きつっていた


「無駄な労力使った」


肩をガクリと下ろして溜息をつき脱力をする
宿屋に戻って疲れを癒したいところだが、このまま何もわからずじまいで戻ってしまっては意味が無い
急速に落ちかけているやる気を必死に巻き返してはとりあえず街を一通り巡ろうと気を引き締めた。


 

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