第十二話 銀色の鳥を通して、が首領から聞いた助言は “シャイコス遺跡にいるゴーレムを服従させて使え”という内容だった。 今いる場所からそう遠くない場所に遺跡に残された魔導器があるらしい レイヴン一人で置いていくには魔物が来ないかと心配になったのだが 「こんな状態でも、自分の身ぐらい自分で守れるから安心してちょうだいな」 と軽快な口ぶりで言われ、は安心してレイヴンの傍を離れた。 けれども、そんなに時間がかかってしまっては魔物が出るここでは十分に危ない できるだけ急ごうと肝に銘じては進んだ 今度は銀色の鳥の案内はなく、鳥はどうやらレイヴンの元へ残ったらしい 「お。あれかな?」 色あせた金色の筐体に、死んだように深く暗い海の底の色をした魔核が埋まっている ソーサラーリングの機能を兼ね備えているチャッピーを構え、はふと動きを止めた 「そういえば・・・・・・」 右手を見つめて、リタに魔導器を使うなと言われていた事を思い出す この魔導器に埋め込まれている術式を初めて見たと言ってはいたが、きっとその忠告だけは確実なんだろう 「リタには魔導器使ったこと、黙ってよ」 正直に話したときの彼女の怒った表情が目に浮かび、思わずクスリと笑みがこぼれる 気を引き締めてチャッピーを構えなおして遺跡の魔導器の魔核へとエアルを放つ 魔導器は魔核に光を灯して起動し すぐ傍の壁がガタリと外れてゴーレムが姿を現した は右手をゴーレムへと向けて右手の魔導器へ意識を集中させ光を灯す すぐにでも契約が終わるだろうと思われた矢先 の姿を見つけたゴーレムは岩でできた大きな腕を振り上げ、狙いを定めてくる 「げっ!」 右手を引っ込めて慌てて横へと転がり回避する。 途端にゴーレムの腕が石畳に振り下ろされ、石畳を見るも無残に砕く もし攻撃が当たっていたらひとたまりも無いだろう その破壊力に圧倒され、思わず冷や汗をかくがここで引き下がるわけには行かない 「せめて、もうちょっと大人しかったら良かったのに・・・・・・」 ゆっくりとした動作で再びに目をつけてくるゴーレムに溜息をつく 床を砕いた破壊力を考えれば恐らくあの岩もどうにかなるだろう けれども、ゴーレムは大人しく服従をしてくれそうにはなく、契約をするためには少しばかり応戦する必要があるようだ だが 「あんまり服従させる子を傷つけたくないしなぁ」 振り下ろされた二激めを素早く走ってかわし、考える時間をとるために大きく間合いを開けた けれども、ゴーレムは当然の如くを追って進んでくる 悠々と石柱にもたれ掛け、は追ってくるゴーレムを観察し始める どこかに弱点はないだろうか 「ん・・・・・・?」 ゆっくりと距離を詰めてくるゴーレム 何かに気がついたのか石柱から離れてゴーレムへと全力で走り向かっていく の行動変化にゴーレムは腕を振り上げ走ってくる目掛けて腕を振り下ろす が、は少しばかり進路を変えてゴーレムのすぐ脇を通って背後へと駆ける ある程度離れたか、というところでくるりと振り返るとゴーレムがちょうど方向転換をしているところだった。 「そっか、図体が大きい分 動作は遅いのか」 動作が遅いならば服従の陣をかけるまでの時間、追いつかれなければ良い はゴーレムに背を向け、倒れた石柱や像をひょいと越えて距離をどんどんと伸ばしていく 振り返ってみると随分と距離が開いているが、ゴーレムはちゃんと後をつけて進んできている これだけ距離があれば十分だろう 右手の魔導器に光を灯し ゴーレムへと向ける 「魔導器展開!服従の陣!」 魔導器から光が弾け飛び、ゴーレムへと突撃した ストリム、ロクラーを初めとする ありとあらゆる術式が順に展開していきゴーレムを包囲する 魔法陣による障壁に防がれゴーレムは歩みを止めた。術式から逃れようと障壁を壊そうとしているが そう簡単に壊れる物ではなく 術式の光が強まるばかりだった。 ゴーレムの動きが大人しくなると、魔法陣がひとつ、またひとつと姿を消していく 全ての陣が消えたときは息をつき 右手を下ろしてゴーレムへと近づいた ごつごつとした岩で出来たゴーレムをぽんぽんと叩き 「貴方にやってもらいたい仕事があるの。ついて来て」 はゴーレムに背を向けてレイヴンの元へと案内し始める ゆっくりとした動作でゴーレムはの後を追い始めた。 その様子は先ほど攻撃をしてきたものとは違い、ただ言われたとおり後を追っているだけだった。 「聖なる活力、癒して ファーストエイド」 無事に抜け出せる事が出来たレイヴンに治癒術を施すと レイヴンは立ち上がって、くるりとその場でバク転をして見せ もう心配要らないと笑って見せたのだが、には溜息を吐かれた 「もしかして、自分で抜け出せたんじゃないですか?」 「そんなこと無いって、本当に困ってたのよ」 「へぇー・・・・・・ それにしても、こんな所に何をしに来たの?おじさんも盗賊団退治か何か?」 「盗賊団?あぁー、そういえばシャイコス遺跡で目撃したとか聞いたわ 残念ながらそいつじゃないのよ。ちょいと探し物をね」 「探し物って?」 こんな遺跡で探す物といったら古代遺跡に関する文献とかそういった類の物だろうか それなら既にアスピオの研究員が何度も調査に出かけてきているので 大方の物は発見されて厳重に保管をされているはずだ 「聖核っていう、魔核の凄い版よ ここで見かけたっていう話を聞いたから」 聖核 その言葉にには聞き覚えはあった 実物を見たことがあり、その製法も知っている それゆえに、何故そんな物を探しているのか理解が出来なかった いったいレイヴンは何のために聖核を使う気なのだろうか 「そんなの探してどうするの?」 「さぁ、俺様は探して来いって言われてるだけだしー」 腕を組んで視線を逸らすレイヴンだが、その表情には誤魔化している感じは無い おそらく、本当にレイヴンも聖核を集める理由を知らないのだろう さらに言うならばそれがどうやって出来て どのような力を持っているかも知らないのだ 「シャイコス遺跡には聖核、ないよ それに、あんまり聖核を集めたりするのしないほうがいいと思う」 「あれ?ちゃん、聖核について何か知ってるの?」 「魔核の凄い版でしょ?」 レイヴンがした説明を笑って繰り返し、あぁ。とレイヴンも笑いながら同意をする 「んじゃま、集めない方がいいっていった根拠は?」 「勘!」 腰に手を当ててキッパリと言い切る 根拠のかけらも無いその理由にレイヴンも苦笑いを浮かべる 「女の勘は当たるって言うしねー うちの大将にもその忠告 言っておくわ」 「その大将って?」 「あー・・・・・・」 不意に聞かれた質問に、レイヴンは言葉を濁らせる 名前を言ったときといい何かしら誤魔化そうとする節がちらほらとあり なんだかギルドの人間だということすら嘘にも思えてくる 疑いの眼差しでレイヴンを見つめていると、レイヴンも嫌そうにを見つめ返す 「大人しく所属してるギルドぐらい言ったらどうよ」 「だってー、俺が言っても信用してくれなさそうだしー」 「わかった わかった、何を言っても信用してあげるから言いなさい」 「それ、今の今まで信用してなかったってことよね?」 改めて言われると確かに鼻から信用はしていなかったと気づかされ は、おぉ、本当だ!と手を打って同意をする 無自覚で信用されていなかったのかと、レイヴンは肩を落とし いじけ始める 「まぁ、細かい事は気にしない!」 「いやいや、細かくないって」 「で、どこ?」 どうやっても食い下がってくるにこれ以上渋っても聞き出すまで 諦めてはくれないだろうと察して、レイヴンは本当に信じてもらえるのか 半信半疑の中で重い口を開いた 「『天を射る矢』」 時が止まった。 『天を射る矢』といえばギルドの中で最も有名で誰もが憧れるギルド ギルドの街 ダングレストを拠点とし、世界中にギルドメンバーがいるという『蒼空の配達』の次に情報に精通しているギルドだ そして、全てのギルドを束ねている大首領 ドン・ホワイトホースの『天を射る矢』 ギルドに関係したものならば誰もが知るその名 そのギルドの一員が今 目の前に・・・・・・・ 「あ・・・・・・・」 「あ?」 はレイヴンを指差して口をパクパクと動かしているだけで言葉が出てこない あまりの驚きっぷりに何の反応も出来ていないをレイヴンは不思議そうに見つめている 「ありえない!!」 やっと出てきたのは、否定の言葉 レイヴンは予想道理の展開に深い溜息を吐いて肩を落としてから反論を返す 「ほらー!やっぱり信じてくれてないじゃないの!」 「だって、『天を射る矢』よ!?嘘つくならもう少しマシな嘘ついてよ!!」 「だから、本当もホント。大マジよ」 「私の中での『天を射る矢』の想像が崩れていくから、もう何も言わないで!」 いったいどんな理想像を考えていたのだと尋ねたくなったが 聞けば余計に自分にダメージが来るだろうとわかったので、レイヴンは再度溜息をつく この話題はここで終わらせておいた方が良いだろう 「そういや、ちゃん『騎士団の中に生きてる死人がいるから誰かわかるか』って聞いてたよね」 頭を抑えて必死に『天を射る矢』のイメージを再構築し続けていたは 動きを止めてレイヴンを振り返り見た もしかして、なにか教える気にでもなってくれたのだろうか。 淡い期待を胸に、は頷いてみせる 「ちゃんがその情報を聞いたのって、ちゃんのところの首領から?」 期待をよそに、レイヴンが尋ねてきたのは情報元がどこかという事だった。 がっくりと肩を落としては頬を膨らませる 「だから、機密事項だって 言ったじゃないですか!」 「そっかー、残念」 全く持って残念そうに見えない態度を取っているが、無理にでも聞いてこようとはしないのはにとってもありがたいので レイヴンの軽々しさには突っ込まないようにした。 「あっ!そういえばユーリたちのこと忘れてた。」 「ユーリ?」 「今一緒に旅してる連れ。盗賊団を捕まえる為に遺跡の地下に行ってて かなり時間経っちゃったから もうアスピオに戻ってるー、とかないと良いんだけど」 「それなら、急いだ方がいいんじゃないの? ちゃんが来てから随分時間経ってるし」 「うーん、でも・・・・・・」 ちらり、とはレイヴンを見る。 せっかく見つけかけた手がかりを握っているような人物と別れなければならないのは少しばかり辛い かといって、ユーリたちと別れてレイヴンについて行くにしても迷惑がられる事は目に見えている 「おっさんはもう行くわ。聖核が無いならここに用事ないし」 「え、ダングレストに戻るの?」 自分が悩んでいるのにもかかわらず、レイヴンのマイペース差は変わらない 恐らくは目の前のが自身のせいで悩んでいるとは思ってすらいないのだろう いきなりの行ってしまう発言に、は慌てる まだどうするか決まっていないのだから当然だ 「んー、ダングレストに行く前にちょいとトリム港にも用事があるのよ」 「また 聖核関係?」 「正解! その前にちょいと報告したい事があるからあの鳥、使わせてもらってもいい?」 レイヴンが指差した先には首領の使いである銀色の鳥 『蒼空の配達』のギルドメンバー以外での鳥の使用は郵便物を頼む時にしか使えない 何か手紙を出すのだろうかと思い、は同意をする 「配達物の受付なら、一般の人もやって平気だし あぁ、それと指笛2回吹いたら来てくれるから 覚えておいて」 「そうじゃなくって、ちゃんの所の首領と話したいのよ 話すには魔核の力使わないとダメでしょ?」 右手に隠れた魔導器を指差しレイヴンはそう続けた。 にもそれは納得のいく事項だったが・・・・・・ 「ギルドメンバー以外で首領と話すのはちょっと・・・・・・ 私を仲介して情報を買うならいいけど それでいい?」 「情報買うとかじゃないのよ、そっちの首領とちょーっと顔見知りでね」 「本当に?」 「本当よ」 首領の顔見知りというと、それなりに首領が信頼している人物なのだろう それなら大丈夫?と疑問が湧く けれども、もし顔見知りというのが嘘だったらとんでもない失態になる。 ここはどう足掻いても慎重にならざるを得ない 「レイヴン、顔見知りでしたら 首領の名前。知ってるよね?」 「知ってるわよー、当たり前でしょ」 顔見知りというならば当然の事ながら首領の名前を知っているはずだ それを思っての質問だった。 レイヴンの表情には余裕と書かれているかのようで自信たっぷりだ これは、本当に首領の知り合いかもしれない 「知ってるから、首領と秘密のお話したいのよ 首領を呼び出してくれたらちゃんはそのユーリっていう人のところに戻ってくんない?」 「なんか、いいように利用されている気がする まぁ、私の方にも時間が無いので勝手に話してくれるのは助かりますけど」 「そう言ってくれるとこっちも助かるわ」 屈託の無い笑みを浮かべたレイヴンを視界の端に止めたまま は銀色の鳥へ向かって光を灯した魔導器をかざす 「とりあえず首領呼びます。 ギルドメンバー以外と話すなら自分が誰かわかるように話してくださいね」 「はいよー」 「所属SU 階級白 名を 首領のお知り合いの方に代わります 私は離れますので後はごゆっくりとどうぞ」 は銀色の鳥から離れて、レイヴンの隣を通り過ぎる 「それじゃ、レイヴン またどこかで」 「いろいろとありがとね、助かったわ」 お互いに手を軽く振っただけの簡単な別れの挨拶だった。 なんとなくだが、レイヴンにはまた会える気がする そんな気がの中で湧き上がっていた。 |