第十一話 「うわぁー、よく岩の下敷きにならなかったね。」 「俺様 こう見えて結構、身軽なのよ」 は紫の羽織を身に纏う男の隣にしゃがみこみ、コツコツと岩を叩く 巨大な岩はその程度の力では全く動じない 男の足は不幸中の幸いにも挟まって抜けなくなっているだけで、岩に押しつぶされてはいないようだ けれども、あまりにも長い時間放置してしまうと血流の流れが悪くなって危険だ 「貴方、ギルドの人だっけ。所属と名前は?」 「んー・・・・・・お嬢さんが名乗ったら、おっさんも名乗るよ」 「私は。『蒼空の配達』に所属してる」 「あぁ、やっぱ『蒼空の配達』だった? 銀色の鳥にそのエンブレム。もしかしたらーって思ってたのよ」 「それで、おじさんは?」 ニヤリと男が笑い、知りたい?と尋ねるのでは素直に頷く 「俺様のことは、ひ・み・つ」 「うわぁ、初めと言ってること矛盾してるし」 「SUなんだから そこの鳥さんに聞けば、なんでもわかるでしょ?」 ギルドの中でも一部のごく限られた層の人間しかしりえない“SU”という単語 その言葉を、得体の知れない人物がさらりと口にする。 “SU”はすなわち『蒼空の配達』の運送業ではない活動 ギルドがこっそりと裏で行っている仕事である 情報管理の事だ 『蒼空の配達』のメンバーは情報伝達が本来の仕事となっており、運送業はいわばおまけ 世界中を飛び回り情報を集めている事を知られないようにする為のカモフラージュに過ぎない この全ての情報は『蒼空の配達』の首領の元へと集められ、クリティア族である彼の頭には情報の全てが洩れなく補完されている。 必要とあれば世界中にいるメンバーを通じて契約のやり取りをし、首領がどこにいるのかギルドメンバーの全員が把握していない 『蒼空の配達』の情報はギルドや帝国を問わず金さえ積めばどちらでも惜しげなく売られる 情報という物は時に武器になり、災いを招く事もある その者にとってより有益な情報は高額に跳ね上がり、時には売る事すら拒否する もちろん、『蒼空の配達』が世界中の情報管理を務めていることは一番の機密事項で この事を知っているのは5大ギルドの首領と幹部。そして帝国の一部の人間だけ 口を尖らせ不愉快だったの表情が硬直し、見る見るうちに無表情へと変えていく は口を噤み、男の澄んだ水色の瞳を見据える 「・・・・・・おじさん何者?」 「とりあえず、レイヴンってことで それでさー いい加減、この状況から抜け出したいんだけど」 レイヴンは身動きが取れなくなっている右足を指差して苦笑いを浮かべた。 心の内で、は何度かレイヴンという名前を繰り返して記憶に焼き付ける よいしょ。と言いながら立ち上がり両手を腰に手を当てて、レイヴンを見下ろす 「そう、じゃあ頑張ってね レイヴンさん」 「えぇ!?ここまで来ておいて助けてくれないの?おっさんショックだわ」 「だって、助けたところで私に利益ないし むしろここで死ぬ運命だったらその運命に従って死ぬべきだわ」 「きっついこと言うわねー、おたくそういう考えじゃ世渡りできないわよ」 「別にどうとでもなるし、というわけでレイヴンさん さようなら」 は手をひらひらと振ってから何のためらいも無く方向を変えた。 初めはレイヴンもからかっているのだろう、と思って様子を見守っていたのだが、引き返す素振りすら見せようともしないので このままを呼び止めなければ帰ってしまうのだろうと悟り レイヴンは少しばかり肩を落としてを静かに呼び止めた 「まぁ、待ちなって。つまり、嬢ちゃんに利益があれば助けてくれるんでしょ?」 は足を止めて、空を見上げて うーん、と唸る 見捨てる事は楽だが自分に利益が出るというのにそれを見逃すというのは、損なのではないだろうか 「まぁ、助けてあげない事も無いけど」 「『蒼空の配達』っていうんなら、情報あげるっていうのはどう? 俺、こうみえていろんな情報もってるわよ」 「へー・・・・・・」 『蒼空の配達』 相手に情報での取引をするというのは、かなり度胸が据わっている ギルドの皆から集められた情報で首領が既に把握している事では取引対象にはならない それでも情報を取引内容として引き出してくるのはそれだけ持っている情報に自信があるということだろうか はレイヴンの元へと引き返し 再び彼の隣に腰を下ろした 「じゃあ、おじさん。騎士団にいる人の情報で欲しいのが一つあるんだけどいい?」 「騎士団?いいよー、なんでも聞いてちょうだい」 ギルドと敵対関係にある帝国の騎士団について聞きたいと言っても レイヴンは全く慌てる素振りは見せず むしろ堂々と構えて何でも答えられるという自信に溢れた表情をしている やはりこうでなくては取引にはならない。とはニコリと笑い言葉を続けた 「騎士団の中に生きてる死人がいるらしいのよね。誰かわかる?」 自信満々な表情を浮かべていたレイヴンの表情がほんの一瞬だけ凍りつく けれどもそれはすぐにいつものヘラヘラとした笑いによって姿を消す そんな僅かな表情の変化をは見逃しはしなかった。 この人は何か知ってる。という確信が心の中に芽生える 「生憎、それ聞いたの今が初めてだから知らないわねぇ ちゃんこそ その情報、いったいどこから手に入れたの?」 「それは機密事項です。 本当に何も知らないの?」 「ここで知らないって言ったら見捨てるんでしょ? それなら俺、嘘ついてでも知ってるって答えるわよ」 「そう簡単にはいかない、か」 首領に聞いても答えてはくれなかった事だ、そう簡単に聞きだせるような内容ではないらしい けれど、首領が答えないといえば一生答えないだろうが目の前のレイヴンは僅かな希望を持てる ここでレイヴンを見捨ててしまったら二度と聞くことが出来る機会はやってこないだろう 「いいよ、助けてあげる」 「本当に?」 「本当だって ちょっと首領にいい方法が無いか聞いてみる。」 暇そうに石柱の上で毛づくろいをしている銀色の鳥と向き合い、は右手の魔導器に光を灯した。 急に発せられた光に銀色の鳥は興味を示し、毛づくろいを止めてを見つめてくる 「所属SU 階級白 です」 銀色の鳥が何度か瞬き、黒い大きな瞳は鋭い眼光へと変化した。 |