第十話 父と母は医者であり治癒術師としても立派な人たちだった 十年前の人魔戦争で父と母は多くの命を救ってきた。 父と母はそれを誇りとは思っておらず、当然のことをしただけだ。と言っていたが 私はそんな父と母をもてた事が何よりの誇りだった。 けれど、沢山の命を救ったはずの父と母は人魔戦争の敵を助けたという汚名を被り 父と母は誤解を解く時間すら与えられず 病院に嗾けられた騎士団の奴らに殺されたのだ 人魔戦争で多くの命を救った医者としてではなく 魔物に味方をした反逆者として、父と母は命を落としたのだ 沢山の命を救った事で、自分の命を落とした父と母 人を救う事は その人の運命を変える事 きっと、父と母はその罰が下り殺されてしまったのだ だから、私は心に誓った 決して人の命を助けない と けれども、帝都やハルルでは助けてしまった。 これは、自分の信念を貫く事が出来ない 私の弱さなんだろう 蔦の絡まった石柱に崩れた石像 時が止まったかのようなこの空間でただ水路を流れ出る水だけが古来よりの礎を伝えるかのようだ シャイコス遺跡、そこはまるで現実とはかけ離れた次元に存在しているかのような神秘的な場所だった。 「この足跡、まだ新しいね 数も沢山あるよ」 地面についたいくつ物足跡にラピードが反応を示し カロルもラピードの傍にしゃがみこんで足跡をじっくりとみている 「騎士団か盗賊団かその両方ってとこだろ」 「きっと、フレンの足跡もこの中にあるんでしょうね・・・・・・」 「かもな」 「ほら、こっち 早く来て」 ここに何度か調査の為に来た事があるのか、リタはこのシャイコス遺跡の構造に詳しいようだ 足跡には一瞥もくれずにリタは自分のペースで奥へ奥へと歩き始める 「モルディオさんは暗がりに連れ込んで、オレらを始末する気だな」 ユーリが言い放つ皮肉にリタは自嘲気味に笑い 「・・・・・・始末、ね たしかにそっちの方があたし好みだったかも」 「不気味な笑みで同調しないでよ・・・・・・」 「な、仲良くしましょうよ」 エステルが苦笑いをしてこの場を和ませようと必死になり 助け舟をとを見るが、もコレばかりはと肩を竦めた。 最近発見されたばかりという地下通路は、大きな石像を押した先にある 男手として借り出されたカロルとユーリのお蔭で地下へと進む事が出来るようになった。 もう、疲れたよ。とカロルはへたり込んでしまうがそれを許すリタではない ベシンとカロルの頭を叩き、さっさと行くわよ。と檄を飛ばして率先して地下へと降りていく 「リタは一人でも進もうとするなんて勇敢だねー」 「研究意欲に溢れてると言って欲しいわ」 「あははは、ごめんごめん」 もリタに続いて地下への通路へと足を進めたところで キラリ 目に眩しい反射光があたり思わず目を細めているとすぐにその反射光は意図的に逸らされたように消える なんだろう。とが目をやった先には見覚えのある銀色の鳥が崩れた石柱の上に止まっていたのだ 自分から呼ぶ事はあってもあちらから連絡が来る事など殆ど無い 何か重要な事だろう。と悟ったは足を止めて頭をかく 「あー・・・・・・ごめん、ちょっと首領からの呼び出し 先に行ってて、後で追いつくから」 一番後ろにいたユーリがを振り返り、あたりをぐるりと見渡し銀色の鳥を目に留めた。 あぁ。と頷いて 「わかった 行って来い」 「後でって・・・・・・一人で大丈夫?」 「チャッピーくんがいるから二人だよ!」 「・・・・・・それ、本気で言ってるの?」 「気をつけてくださいね、」 「ありがとうエステル。 そっちも気をつけてね でもって、ユーリは魔核泥棒捕まえて水道魔導器の魔核奪還頑張って!」 「言われなくてもやるって」 石柱に止まる銀色の鳥へと近づくと、遺跡の奥へ奥へとを誘うように鳥は飛んでいく 鳥にとっては、崩れた足場など関係なく優雅に飛び回り 足場の悪い地形をよじ登ったり飛び越えたりと、必死に追いついてくるを馬鹿にしているようだ 「あの馬鹿鳥・・・・・・焼き鳥にして食べてやりたい・・・・・・」 愚痴をいいつつも手足はちゃんと動かす 結局は巨大なシャイコス遺跡の最奥まで来てしまった 大きく開けた場所になっており、石畳がガタガタと風化していたり石柱が倒れたりしているが いままで歩いた道を考えると随分と傷みが少ない 「おぉ・・・・・・入り口から凄いと思ってたけど やっぱり奥はもっと凄い・・・・・・」 羽ばたきをを止めずこのあたり一帯をぐるぐると銀色の鳥は旋回し続ける が近づいたところで全く変化が無く、どこかに止まって話すような気配も無い 「首領、ふざけてるんですか? 私も暇じゃないんですけど」 「ちょっとー!誰かいるなら助けて欲しいんだけどー!」 「・・・・・・へ?」 銀の鳥から発せられた言葉ではない別のところから聞き覚えの無い声が聞こえる あたりをぐるりと見渡してみても人影はない けれども、先ほどの声はどうも幻聴とは思えないような声だった 無視をしてしまってもいいのだが、首領の遣いの銀の鳥がいる もしかしてこの声の主を助けろという命令なのか。と思うとその声を無視しては逆に地獄を見るような気がする 「え、えーっと。 どこですかー!」 「こっち こっちー!」 「こっちじゃわかんないよ・・・・・・」 とにかく、声が聞こえてきたであろう方向に進んではいるが 本当にこの方向であっているのかと不安になる。 銀色の鳥はの後を見張るように着いて来るだけで全く頼りにならない 「おーい!まだ無事ですかー!?」 「・・・・・・わーお、絶景」 声の方向はの下から聞こえた がいるところから下の崖になった地形を降りたところで黒髪を後ろで一つで束ね 紫色の羽織を着た割と年配の男性が岩の間に足を挟んだ状態で見上げている その視線の先を追って男の視線の先に気がつき はすぐさまスカートを押さえてこれ以上ないほど早く後ずさる 「うぁあああああああ!変態!変人!スケベ!」 「ちょっ!不可抗力なのにそれって酷いっ!」 このまま立ち去ってやろうかと思ったが、話ぐらいは聞いてあげようと思って引き返し は崖の端に座り、顔だけを覗かせて男を見る 「・・・・・・何してるんですか。こんなところで」 「ギルドの仕事で来たんだけど、ちょーっとドジやっちゃってさ 足が挟まって抜けないもんだから、俺様の命もついにここで終わりか・・・・・・! って思ってたら声が聞こえてさ」 「ギルドの人なの?」 「そうよー、驚いた?」 今置かれている状況下は良くないはずなのに、ギルドの人間だと言った男は笑顔を浮かべている 随分と楽観的な考えの持ち主なのかもしれない 「とりあえず、話がし辛いんで下に行きますね」 「はいよ そう言っといて、おっさんを置いて逃げちゃわないでよね」 「逃げませんって」 こっそりと逃げてやろうかと思ったことは胸の奥底にしまっておく事にした |