第九話 「『絶対、入るな モルディオ』」 リタという人はこの小屋に住んでいると教えられてここまで来たはいいが 目の前の扉に大きく張り紙が貼られている。 モルディオといえば、ユーリたちが探している魔核泥棒の名前だ もしかして場所を間違えたのだろうかと思ったが、ここまで案内してくれたのはアスピオに住む魔導士なのできっとあっているのだろう とりあえず、一度 会ってみようと思いは戸をノックをしようと手を伸ばしたところで ボンっという爆発音が中から聞こえてくる 思わず自分の手を引っ込めて、何もしてないよね!?まだ何もしてないよね!と自身は何も悪いことなどしていないというのにあたりを挙動不審に見渡す このままノックをしていいのだろうか、と思いながらもずっと待っていたのでは埒が明かないので はそっと戸をノックした 「ちょっと、そこのアンタ 私の代わりに出てちょうだい」 女の子の声だろうか、小屋の中から戸を通しての耳に僅かに届く 少し待っていると、ゆっくりと戸が開きと戸を開けた人物は あ。と互いを見合わせる 「じゃないですか。どうしたんです?」 「どうした・・・・・・って言われても ここにリタさんが住んでるって聞いて」 「なに?またあんたらのツレなの?いったいあんたらなに?」 「えっと、ですね・・・・・・」 エステルは小屋の主なのか白いマントを着た小柄の少女に事細かに事情を話し 少女は時折頷いて相槌をうつ 大まかな事情をエステルが話し終えるとすかさず、ユーリは水道魔導器の魔核泥棒疑惑をかけられた原因を指をさし箇条書きに言い放つ 「ふ〜ん、確かにあたしはモルディオよ リタ・モルディオ」 「あ、じゃあ やっぱり私の探してたリタさんってのは」 「あたしの事じゃないの?アスピオには他に“リタ”なんていないし」 「で、実際のところどうなんだ?」 「だから、そんなの知ら・・・・・・」 呟いていた言葉をリタはピタリと途中で止める 今までしまわれていた記憶がじんわりと甦り初め あ、その手があるか。と一人で納得する 「ついて来て」 事情も話さずに外へと向かい始めるリタにユーリは眉を顰める 「はあ?おまえ、意味わかんねぇって まだ、話が・・・・・・」 「いいから来て シャイコス遺跡に盗賊団が現れたって話、せっかく思い出したんだから」 リタの声のトーンは相変わらず不機嫌な様子を見せているようでとても低い そんな態度をとるリタの事をまだ信用していないユーリはリタの情報がガセではないかと疑う 鼻で笑うかのようなユーリの態度にリタはあくまで冷静さを失わず 淡々とその情報は協力要請に来た騎士から聞いた話だ。と言い返す それって、フレンのことでしょうか?と声を潜めてエステルはユーリに視線を向ける カロルとも二人の声を聞きつけて そろりそろりと身を寄せてひそひそ話に加わる 「そういえば、外にいた人も遺跡荒らしがどうとか言ってたよね?」 「そのお蔭で入れてもらえなかったしね」 「つまり、その盗賊団が魔核を盗んだ犯人ってことでしょうか?」 「さぁなぁ・・・・・・」 「相談終わった?じゃ、行くわよ」 2階に上り姿を消していたリタは、先ほどのマントを脱ぎ 旅装束の為の服へと着替えていた。 「出し抜いて逃げるなよ」 「来るのが嫌なら、ここに警備呼ぶ? 困るのあたしじゃないし」 ユーリよりリタの方が一枚上手のようでユーリは思わず肩を竦める 「捕まる、逃げる、ついてくる どーすんのか、さっさと決めてくれない?」 耳覚えの無い魔核泥棒疑惑を勝手にかけられた事にかなりイラついているのか リタの口調は刺々しさがさらに増している。 「わかった、行ってやるよ」 「そういえば、あんた あたしに魔核を治して欲しいんだっけ?」 火の魔術を唱え終え、全ての敵を倒し終えたリタは彼女と同じく後方に待機しているを見る は左手のチャッピーを上下に動かして そうそう!と頷く 「・・・・・・なによ、それ・・・・・・」 リタはチャッピーを指差して、引きつった顔で尋ねる チャッピーを大きくバタバタを動かしては笑顔になって答える 「この子は、チャッピーくんでーす!」 「“馬鹿め、もっと真面目な紹介をしろ!小娘も失礼の無いようにしたまえ”」 「大丈夫だよチャッピーくん。私は大真面目だよ」 いきなり始まった腹話術によるやり取りにリタは反応に困る けれども、そんな態度を取られたところでのやり取りは終わらない 「ごめんね、リタ この子凄く口が悪くって」 「“お前こそ、口を慎みたまえ!”」 「・・・・・・リタ?」 あまりにも黙っている時間が長い事に流石のも気がつきリタの顔を覗き込む 意識をとりもどしたリタはすぐさま腕を組んで顔をそっぽに向ける 「な、なんでもないわよ! とにかくあたしに壊れた魔核を貸してみなさい!」 ずい、とに開いた手の平を突きつけ 早く早くと即すように手が動く リタの言葉に頷いては己の右手をその手の上に重ねる 「・・・・・・なにしてんのよ」 「だから、魔核を」 「ふざけてるの?」 「え、いや・・・・・ふざけてないけど」 そういえば、リタに自分が右手に魔導器を埋めていると教えていないのだと思い出し はリタの手の上から右手を引き、手袋をはずすと再びリタの手に手を重ねる 「はい!」 「・・・・・・ちょっと、何よこれ・・・・・・」 「何って、魔導器」 リタは開いた片手で魔導器を操作する陣を開きすぐに解析を始めながら 「手に埋め込むなんてどうかしてる!」 と、怒鳴りつける。 その迫力にびくり、との肩が振るえて思わず手を引いてしまいそうになったが の右手はリタによりしっかりと捕まれている為 逃げる事ができない いつまでも着いて来ようとしないたちに気がついたユーリはその名を呼び注意を呼びかけようと口元に手を当てて口を大きく開けたところでリタの焦った表情との不安な表情を目に入れ 何かあったのだろうとユーリは悟り、エステルとカロルに声をかけてすぐにの元へと走る 「ありえない、こんな術式 見たことない 何よこれ 何なのよいったい!変な術式なのにエアルは安定してるし・・・・・・」 「おい」 リタに握られていたの手をユーリがひょいと奪い去る ユーリがそのままをリタから引き剥がし自分の背後へと避難させる 解析の途中で突然止められたリタはユーリをキッと睨みつけると同時にユーリの後ろに隠れたをとりかえそうと手を伸ばす パシン ユーリはリタの手を叩き落としてリタを睨みつける じん、と手に痛みが走り リタの怒りが増していくのだが、ユーリはの傍を離れようとはしなかった 「ちょっと!あたしが何したってのよ!」 「が怖がってたじゃねぇか」 「はあたしに魔核を治して欲しいって頼んできたのよ! あたしはただ、その解析をしてただけじゃない!」 「限度っつーのがあるだろ 世の中にやって良い事と悪い事の区別がつかないなんて、魔核泥棒のモルディオ様だな」 「だから、あたしはやってないって言ってるでしょ」 「二人とも止めてください!」 「そうだよ、理由はどうあれ喧嘩はよくないよ!」 今にも掴みかかって本格的に喧嘩を始めてしまう雰囲気をエステルが二人の間に立ちカロルもなけなしながら二人の様子を見ていられず仲裁に入った リタは腕を組んでそっぽを向き ユーリも不機嫌な顔をして視線をそらす ここに来て、さらに二人の溝は大きく開いてしまったようだ けれども互いが互いにその溝を埋めようと努力する気はないらしく、ユーリはさっさと行くぞ。と呟いて先に進んでしまう。 「あ、ちょっと待ってよ ユーリ!」 カロルが慌ててその後を追い、エステルもリタとを一度振り返るもユーリとつかづ離れずといった距離で追いかける より先に動いたのはリタだった リタはからも視線をそらしたまま、ユーリの後を追うために歩を進める けれど、その歩みはすぐに止まりだけに聞こえる小さな声で 「ごめん、あたし魔導器の事になると夢中になっちゃって さっきのはちょっと強引だった・・・・・・かも それとね あんたの魔導器、あたしがちゃんと検査するまで念の為使わないようにしてあげて 壊れたりしたら、かわいそうだから」 告げ終えると同時にリタはの前から顔を赤くして走り去った 恐らくリタは人との交流に不慣れだが魔導器に対する愛情は人一倍強いのだろう 少しばかり不器用さのある彼女の姿にはどこか微笑ましさを感じていた。 |