第六話 「パナシーアボトルの出来上がりだ」 「これで毒が浄化できるはず!早速行こうよ!」 集め終えたすべての材料を渡すとよろず屋が要領よくアイテムの合成を行い カロルの手に出来上がったばかりの受け取り、近くにいたの手を引いて走り始める。 「そんな慌てんなって 一つしかねぇんだから、落としたら大変だぞ」 あきれた様子で肩を落としユーリがそう告げるとカロルは慌ててから手を離して もう片方の手に持っているパナシーアボトルを両手で大事そうに持ちなおした 「う、うん なら慎重に急ごう!」 虫の鳴き声が響き渡る夜のハルルの樹の下には、ハルルの樹を治るかもしれないという情報を聞きつけたハルルの街の人々が不安な表情で集まっていた。 その誰もがハルルの樹を見上げては沈んだ表情を見せている ユーリたちが現れると長がすぐに気がつきカロルの手に持たれたパナシーアボトルを見つけて喜びの表情を浮かべた。 カロルはユーリに向かってパナシーアボトルを渡そうとしたがユーリは手を振ってそれを断り 「カロル、任せた 面倒なのは苦手でね」 「え?いいの? じゃあ、ボクがやるね!」 ハルルの樹の根元まで走り、パナシーアボトルの蓋を開け 魔物の血が染み込んだ場所へと丁寧に振り掛ける。 変化はすぐにあった。青紫色の光が地面から上がり煌々と樹を照らし始めたのだ 祈るように光を見つめていると、その光は突然弾け飛び姿を消してしまった。 「うそ、量が足りなかったの? それともこの方法じゃ・・・・・・」 ハルルの樹が治ると一番確信していたカロルは思っていた結末とは反した結果に肩を落とした。 パナシーアボトルで治るとカロルと同じぐらい信じていたエステルはこの結果を認めないといったように首を振ってユーリを振り返った。 「もう一度、パナシーアボトルを!」 「それは無理です。ルルリエの花びらはもう残っていません」 肩を落として、もう治すすべが無いのだと落胆しながら長は答えた。 これで最後の望みも消えてしまった。それでもエステルは諦めたくなかった 『蒼空の配達』はハルルの花びらを使っている、それなら『蒼空の配達』のギルドメンバーであるが持っているのではないかと気がつき 皆から離れた位置に立っていたに近づく 「はルルリエの花びら持っていませんか!?」 「ごめん・・・・・・エステル 私、花びら全部切らしてしまっていて持ってないの」 「そんな、そんなのって・・・・・・」 エステルは肩を落とし、未だに枯れたままのハルルの樹を泣き出してしまいそうな顔で見上げる この時、は自身が花びらを持っていないことを後悔した。他の仲間たちに頼んだらすぐにでもルルリエの花びらを送ってもらえるかもしれない けれどもそのルルリエの花びらが届くのがいつになるかわからないし、そもそももう一度やったところで結果は同じかもしれない ふわり 祈るように手を組んだエステルの周りを金色に輝く光が舞い上がる 「咲いて」 呟いた言葉が鍵だったかのようにその光は急激に明るさを増し 天へと昇りハルルの樹を包み込んだ。 光に包まれたハルルの樹は導かれるようにしなびた枝を力強く持ち上げ ひとつ、またひとつと花をつけ色鮮やかに咲き誇っていく ふと、が視線を下ろすと自らの右手の甲がエステルの光に共鳴するかのように光り輝いている。 発動の意識をしていない時に魔導器が勝手に光りだすなど初めてのことだった。 「うわぁ・・・・・・」 カロルの感嘆の声に引かれて右手の甲からはハルルの樹へと視線を戻した。 ハルルの樹が見たことも無いぐらい美しく咲き乱れ、結界魔導器がハルルの街を包んだ ハルルの人々は驚きと喜びに溢れた 「わ、わたし、今なにを・・・・・・?」 力を使い終わり疲れ果てたエステルはペタンと地面に座り込み 自分がなにをやったのかまるで理解できていないようでオドオドとしている 気がつけばの手の光もいつの間にやら収まっている。 もしかして魔核の傷が先ほどの影響で治ったのではないかと期待をしてそっと手袋を外してみる 見えたと同時に、は相変わらずそこにいる魔核の傷に肩を落とし ご機嫌なカロルとユーリはハイタッチをしているのを見て離れていたもそちらへと向かう と並ぶようにしてラピードがユーリの傍へと歩み寄るのを見て、は思わず足を止める 今までじっとしていたラピードの視線に導かれるように全員が同じ場所へと視線を向けた 暗くてよくは見えなかったが、なにやら人影が目に写った。 その後姿に見覚えがあったユーリとエステルはすぐさま警戒をし始めている。 「あの人たちお城で会った・・・・・・」 「住民を巻き込むと面倒だ 見つかる前に一旦離れよう」 「え?なになに?どうしたの急に!」 「あれ・・・・・・ユーリたちの知り合い?」 「知り合いたくない知り合いだな」 「追われてるの?」 「まぁな」 とにかくここからすぐに離れようと、ハルルの樹の下からの坂道を下る ひとしきり下り終え、上からでも姿見つからない死角に入ったことを確認してユーリが溜息をついた 「面倒な連中が出てきたな」 「ここで待っていればフレンも戻ってくるのに」 「あれ?ユーリたちってフレンさんの知り合いなの?」 フレンといえばハルルが襲われたときに守っていた騎士の名前だ。 すぐにでも忘れてしまう名前かもしれなかったが、彼は律儀にも手紙を残していったのでの記憶の中に強く根付いていた。 ユーリとエステルは逆にがフレンのことを知っていることに驚いていた ハルルの街が襲われた時に一時的に共闘をしてた。と返すとエステルが頭を下げてハルルを守ってくれたことの礼を言い始めてしまいは慌ててエステルに顔を上げるように頼み込む 「ボクだけ置いてけぼりにしないでよ・・・・・・ そのフレンって、いったい誰?」 「エステルが片思いしてる帝国の騎士様だ」 ユーリが得意げに答えて、カロルとを驚かせた 思惑通りに二人は声を上げて 本当に!?といった感じに互いを見合って 当の本人であるエステルに同時にすばやく視線を向けた。 エステルは慌てて両手を振り必死に否定をする 「あれ?違うのか?あぁ、もうデキてるってことか」 再びカロルとは互いに顔を見合わせ おぉ!と感嘆の声を上げてエステルをキラキラした眼差しで見つめる にやにやと笑うユーリに完全にしてやられたエステルは頬を朱に染めて唇を尖らせる 「もう、そんなんじゃありません」 そっぽを向いても赤くなった頬はなかなか元には戻らない カロルとは後ろでこそこそと これは意外と脈ありなんじゃ?と秘密の会議を開いている 「ま、なんにせよ 街から離れた方がいいな」 「そうですね 街の皆さんに迷惑をかけたくありません」 「フレンって人の行き先がわかってるなら追いかけたら?」 「確か、東に向かったって言ってたよな」 「はい」 「フレンさんなら東のアスピオに行くって手紙に書いてあったよ」 「アスピオ・・・・・・か、魔核泥棒もそこにいるらしいから一石二鳥だな とカロルはどうするオレたちと一緒に来るか?」 「私はこの壊れた魔導器を治して欲しいし もともと行くつもりだったからついてくよ」 「ボクの方は港の街に出てトルビキア大陸に渡りたいんだけど・・・・・・」 「じゃあ、サヨナラか」 やけにあっさりとユーリは返して、カロルは思わず驚き溢れた声を上げる 「カロル、ありがとな 楽しかったぜ」 「お気をつけて」 「また、どこかであったらよろしくね」 エステルは頭を下げ、ユーリはサヨナラの合図のように片手を振る さえも後ろで手を組んでにこりと笑いかけてきたのだからカロルは焦りの表情を浮かべる 「あ、いや、もうちょっと 一緒についていこうかなぁ」 「なんで?」 本来ならばそのまま同意をすればいいものをユーリはわざと問いかける おそらく、カロルを困らせる為にわざと聞いたのだろう 「やっぱ、心細いでしょ?ボクがいないとさ」 「ま、カロル先生 意外と頼りになるもんな」 「では、みんなで行きましょう」 「賛成〜 チャッピーくんも喜んでくれるよ 良かったね」 「それ、あんまり関係ねぇだろ とりあえず アスピオを目指してとりあえず街を出るか」 |