第五話 長い間寝台に横たわっていたはゆっくりと目を開けた。 随分と楽になったがいまだに気だるさが残っている 「あれ?私なんでこんなところで寝てるの?」 ゆっくりと体を起こし、ふとすぐ傍にあった小机に手紙が置いてあることに気がついた。 仕事の品だろうか。白い封筒を手にとってみると帝国騎士団の印が押され封がされてある 宛名は書いておらず差出人の名前だろう『フレン・シーフォ』という文字だけが手紙の端にそっと添えられている。 「あぁ、そっか。 魔導器使いすぎて気を失っちゃったのか 阿呆だな〜私」 宛名に名前が無いということは自分宛なのだろうかと考え、そういえば相手に名乗ることを忘れていたなぁといまさらながらに思い出す 何度確かめても差出人の名前しか書いていないのでは仕方なく封を開けた。 封筒の中からはこれまた上等な便箋が入っており、広げてみると便箋の中央に薄っすらと帝国のシンボルが描かれている その上には丁寧な字でハルルを救ってくれたことの礼、宿代は気にしないで良いということ、自分たちはハルルの樹を治すためにアスピオの魔導士を訪ねてみる。といった内容が書かれていた。 封筒にしまい、ツールポーチに手紙を入れる。 ついでに、手紙がなくなっていないか確認をし自分が眠る前の状態と同じだと確認し終えてほっと息をつく いったい自分がどれほど長く眠っていたのか想像がつかないが、長居は無用だろう もしかしたら既にユーリ・ローウェルという人物がハルルに辿り着いているかもしれない。 は宿から出ることにした 身支度を整えて、使っていた寝台を使われていない隣の寝台のように綺麗になおす 部屋を出て宿の主に礼をいい宿から離れた これから情報収集をしなければならない。面倒だなと思いつつもハルルの街をぶらりと歩き始めたその時 「でも、パナシーアボトルで何をするんだい?」 「ハルルの樹を治すんです」 よろず屋の方面から聞こえてきた声には耳を傾けた。 よろず屋の前には長い黒髪の真っ黒な青年と、彼とは対照的に白を貴重とした桃色の髪の女性がいて 青年の隣には青い犬が凛として佇んでいる その二人の様子を物陰に隠れながら大きな鞄を持った赤いスカーフの少年が覗き見ている。 一風変わったその光景をは近づくことなく遠くから眺め こっそりと話に耳を傾ける。 しばらくすると、よろず屋から離れた2人と一匹が陰に隠れていた少年に声をかけた 「パナシーアボトルで治るって信じてくれるの・・・・・・?」 「嘘ついてんのか?」 青年の問いかけに、先ほどカロルと呼ばれた少年は首を横に振る 柔らかい表情を浮かべて青年は、お前の言葉に賭けるよ。と答えた。 「ユーリ・・・・・」 カロルは目の前にいる青年に向かってそう呼んだ ボクも忙しいんだけどね。と頭を掻いて照れたようにいうカロルの背後からはユーリという青年の姿を見つめ続けていた。 まさか探し始めてすぐに本人と出会えるなんて思っていなかったので思考が上手く追いつかない けれどもこれで無事に届ける事が出来る。 ツールポーチにある手紙を取り出し 話がまとまってハルルから出て行こうとするユーリたちに声をかける。 名前を呼ばれたユーリは振り返り首を傾けてくる。 「何?オレになんか用でも?」 「ユーリさんに手紙を届けにきました」 「手紙?」 「あっ!ユーリ、この人『蒼空の配達』の人だよ!」 の服装と帽子に入ったエンブレムをみて、カロルがユーリに伝える 『蒼空の配達>』という言葉に馴染みが無いユーリは何だそれ。と逆に尋ねる それに答えたのは桃色の髪をしたエステルだ。 「『蒼空の配達』とはギルドの一つで、手紙の配達をしてるんです 花びらを目印みたいで花びらを舞わせながら手紙を届けに来てるんだって聞いたことがあります。」 「エステル、ギルドのことなのに詳しいね」 「手紙を届けてくれた人に聞いたんです」 「へぇ〜・・・・・・そういや、下町でも何度か降って来た時があったな 貴族の連中の仕業なのかと思った。」 「これがその手紙ね」 あらかじめ取り出していた手紙をユーリに手渡す。 差出人に書かれた文字を見てユーリは笑顔を見せた。 「ねぇ、誰から!?」 今にも飛び上がって知りたいという様子のカロルを手で制して 「下町のガキからだよ ったく、汚ねぇ字だな。どうせならもう少し丁寧に書いてくれよ」 「なんて書いてあるんです?」 「“ユーリいつもありがとう” こんなでっかい紙にこれだけだ、笑えるだろ?」 「でも、一生懸命書いたんだなって私にもわかります」 「だな」 ユーリは手紙をしまい、笑顔を向けているを見る そういえば。と下町を出て行ったときのハンクスの言葉を思い出した。 水道魔導器を止める為に手伝ったという人物が探していたはずだった。自分はハルルに行くと伝言を頼んだのだからもしかしなくとも、その人物こそ目の前にいる彼女だろう 「わざわざこんなところまで追いかけさせるようにさせちまって悪かったな」 「ううん、どこにいても本人に届けるのが仕事だし それより、パナシーアボトルを使ってハルルの樹を治すって聞いたんだけど」 「合成の材料を持ってきたら作ってくれるんだと」 「それでハルルの樹が元に戻るなら私も手伝わせてくれない? 『蒼空の配達』にとってハルルの樹はとても大切な樹なの」 ユーリの心の中では別に構わないからすぐにでも受託するのだが、この旅にはツレがいるので 後ろにいるエステルとカロルを振り返った。 エステルもどうやらユーリの気持ちと同じらしく何より一緒に行く人が増えるのが嬉しいので笑顔を浮かべて頷く。カロルはカロルでエッグベアを倒すのに一人でも多くの戦力が増えてくれるのは自分にとっても助かるので喜びながら頷く 「ってわけだから、いいぜ」 「ありがとう」 リリリエの花びらを長から受け取り、クオイの森へと辿り着きニアの実を探している ニアの実の場所はどうやらユーリが以前この森を抜けたときに把握しているらしくその場を単純に目指すことになる。残すはエッグベアの爪を取る為にエッグベアを探さなければならないのだが カロルが得意げに、ニアの実さえあればボクがなんとかするよ!と胸を張って言っている 「そういや、はさっきから素手で魔術唱えてるけど いったいどこに武醒魔導器なんて持ってるんだ?」 「あぁ、右手につけてあるの 万能な魔導器くんをね」 「その手袋が魔導器なんです?」 「違う違う」 左手を軽く振ってから、右手の手袋をはずしてよく見えるように手の甲を差し出す その右手の甲には橙色の魔核が嵌められた魔導器が埋め込まれている 「な、なにこれ・・・・・・!?魔導器を自分の体に埋め込むなんて考えられないよ!」 「そうなの?魔導器の使いかたってこれが普通だと思ってた」 「武醒魔導器はアクセサリーとか装飾品として加工されてそれを身に着けて使うんだ いったい、いつからこんな魔導器を使ってるの?」 「ギルドに入ってすぐにこの魔導器を貰ったから7年近くになるかな」 「使い方なんて害が無いならいいじゃねぇか」 「うん・・・・・・そうなのかな」 体に直接魔導器を身につける事例など聞いたことが無いカロルは複雑な表情で頷いた 7年間大丈夫ならば今後もおそらくは大丈夫なのだろう 魔導器をつけた当の本人であるは特に気に止めることなくやり過ごしている 「あれ?これ、魔核にヒビが入っちゃってますよ」 「えっ!嘘っ!?」 ほら、ここ。といってエステルが指差した先に僅かだが魔核にヒビが入ってしまっている。 涼しげな顔をしていたはそのヒビを見た瞬間に顔面蒼白になる。 「首 領 に 殺 さ れ る 」 どうしよう!どうしよう!といきなり慌てふためき始めたをエステルが必死になだめユーリはその様子を楽しんでいる。 ラピードは相変わらずマイペースに欠伸を一つしてその様子を傍観している。 「魔導士に魔核を治せないか聞いてみたらどうだ?」 「それだ! よし、ハルルの樹が元に戻ったら魔導士が集まってる学術都市に行って治してもらう!」 「そうなると、魔核が傷ついた魔導器を使うのはちょっと危ないですね」 「そうだね は武器とか何か持ってないの?」 は右手に手袋を嵌めなおし、じっと考え込みながらツールポーチを開いた。 いったい何が出てくるのかと思ったらパペットのぬいぐるみが出てきた。 パペットを左手に嵌めてパタパタと手を動かしたり口を動かしたりする そのパペットはいったい何の動物をモチーフにしたのかわからない猫のようなリスのような耳に赤いチェックのチョッキを着ていた。 頬に当たるところには左右それぞれ星とハートが描かれている。 「わぁ、かわいいです」 「かわいい・・・のかな?」 「いや、かわいいって部類じゃねぇし だいたい、こんな人形じゃ武器にはならないだろ」 「“キミは随分と失礼だな!口の利き方に気をつけたまえ!”」 パペットの口をぱくぱくと動かし動きをつけては腹話術をしている。 突然のその展開にユーリは思わず絶句する 「・・・・・・?」 「チャッピーくんです」 どうやらそのパペットの名前はチャッピーというらしい チャッピーは腕をばたつかせて指を刺してきているユーリを怒っているのか何度も睨みつけているかのような動きをしている。 「“なんだねキミは!私の名前に何か文句があるのか!”」 「名前に文句があるわけじゃねぇけど・・・・・・って、、普通に話してくれよ」 「ユーリと話してるのは私じゃなくてチャッピーくんだよ? ごめんね、この子結構口が悪くって」 「“口が悪いとは失礼な!私の祖先は先祖代々・・・・・・”」 「まぁ、そういうことだから 武器については心配ないよ この子こう見えてちゃっかりスキル付属もされてるし」 「・・・・・・なんか、よくわからないが 心配はいらないんだな」 「はい」 「“こら、貴様ら!私の話をちゃんと聞かんか!”」 「へいへい そんじゃ、ニアの実を取りにちゃちゃっと進みますか」 |