第三話 デイドン砦についてすぐ、五大ギルドの一つ『幸福の市場』の社長、カウフマンによっては引き止められていた。 そうそう会うことは敵わないギルドの首領 しかも、それが五大ギルドの首領ときた 話しかけられる機会などまともに無いのでここは喜ぶべきところなのだが カウフマンの眼鏡の奥で細められた目に何か嫌な事が頼まれると直感していたは引き腰になっていた。 「平原の主が来てるのよ どうにかならないかしら?」 「どうにか・・・・・・まぁ、なると思うんですけど」 「何かあるの?」 「ちょっと人を探してるんです。デイドン砦が封鎖されてるならここにいると思うんですけど」 「わかった、貴方がどうにかしてくれている間にその人がどこにいったか調べておいてあげるわ その人がいたらちゃんと引き止めておいてあげるから」 お礼と探しているユーリの特徴をはカウフマンへ伝えるとカウフマンは何か心当たりがあるのか、意味深な笑みを浮かべる が首を傾げてカウフマンに何かあるのかと尋ねてみるといいように誤魔化されてしまい 真相を知る事は出来なかった とにかく、このまま魔物をほおって置いては自身もハルルへ向けて行くことが出来ない為 砦の反対側の様子を見るために高台へと上る そこから見えるハルル側の砦の壁には魔物が興奮した様子で何度も突撃を繰り返している。 何度も体当たりを繰り返している為、魔物自身もかなり傷ついている様子で血の痕がつき 魔物の痛々しい有様には唇を噛み締めた。 「まだ、そんな時期じゃないはずなのに・・・・・・」 はゆっくりと右手をかざし意識を込める。 「ごめんね・・・・・・」 「魔導器展開 使役の陣」 大きな魔法陣が魔物たちの頭上に広がり 結界魔導器のように包み込んでいる 右手の光が輝きを増すと、多くの魔物の中で毛並みが美しく一番大きな姿の魔物が動きを止め 踵を返し始めた。 それに従うようにして地響きを立てながら魔物は一体、また一体と遠退いていった。 右手を下ろし、魔法陣が消えてしまってもは高台から離れようとせず 最後の一匹が見えなくなるまでその姿を見届け続けた。 「どうやら上手くいったみたいだね」 なかなか下りて来ようとしないを心配したカウフマンが高台に上り、何もいなくなった草原を見渡す 下にいる部下にもう大丈夫だと合図を送り未だに遥か彼方を見つめ続けるの肩に手を置いた 「流石、『蒼空の配達』なだけあるわ 魔物を扱わせたら一流ね」 「私なんてまだまだです。他の方ならもっとうまくやりますよ それより、カウフマンさん ユーリさんいましたか?」 「そのことなんだけどね・・・・・・」 その後、カウフマンから聞かされた言葉には眩暈がした。 どうもユーリはハルルへとどうしても行かなくてはならないとかで、カウフマンがデイドン砦を通らずに ハルルへ行く為のルートであるクオイの森を勧めたらしい クオイの森といえば確かにこのデイドン砦を通らずにハルルに行くことが出来る土地だ だかしかし、そこには禁忌の森という不気味な名称もついており好んで通る道ではない はこのままユーリを追いかけてクオイの森へと向かうのがいいのか 先回りしてハルルへ向かいそこで待っていた方がいいのかと考え始める 「貴方もハルルに向かうつもりなら一緒に行かない? みたところ魔物を連れてないから一人なんでしょ?」 「はい、ちょっと花びらを切らしてしまっていて・・・」 「それならなおさらクオイの森に一人で行くなんて危険だからハルルで待っておいたほうがいいわ ユーリさんが来るまでの間、ハルルで花びらの取引とかしていれば暇もつぶせるでしょ?」 なかなか理にかなったカウフマンの提案に、もなるほど。と承諾をする。 戦えるほどの技術を人並みにはももってはいるが大勢で移動した方が危険も少ない はカウフマンに頭を下げ 「道中、よろしくおねがいします」 「こちらこそ、よろしくね」 が顔を上げたところで差し出された手を握り、お互いに協力し合う契約を立てた。 ガタゴトと、揺れながら龍車は進んでいる。 荷台に乗せられデイドン砦を襲った魔物が再び現れないかは警戒をしていた。 警戒するといっても魔物狩りを仕事としているギルド『魔狩りの剣』の2名が『幸福の市場』の荷台をここぞとばかり見張っている為、気楽なものだった。 ただ、魔物を足として使う『蒼空の配達』と魔物を狩ることを目的とする『魔狩りの剣』では大きく溝がある。 今でこそ影は薄れたが、かつては『蒼空の配達』が仕事で使っていた魔物を『魔狩りの剣』が狩ったとして両ギルドの間で不穏な空気が流れたことがあった。 それが無事にギルド同士の抗争なく円滑に進んだのはギルドを統べるドン・ホワイトホースのお蔭である。 とは言うものの、両ギルドに作られた溝は大きくその事件がきっかけとして『蒼空の配達』の配下にある魔物は常にハルルの花びらを散らすことが暗黙のルールとなって作り上げられた。 結果として、『蒼空の配達』が使っている魔物は狩られることは無くなったのだが 『蒼空の配達』と『魔狩りの剣』とでは魔物に対する思想の違いからか、よく揉め事が発生する 『魔狩りの剣』の一員であるフードを被り顔がよく見えない男が荷台でぼーっと外を眺めていたへと近づいてくる。 は無駄な口論は相手も望まないだろうと体の向きを変えて視線を荷台の中へと落とした。 「おい」 背後から声がかけられてしまい、口から漏れそうになった溜息を押し殺してなんでもないように振り返った。 「なんでしょうか?」 「お前『蒼空の配達』だな?」 「・・・・・・はい」 「デイドン砦で魔物を追っ払ったってのはお前か」 「そう、ですけど」 自分に対する嫌味が飛んでくるのなら耐えられる、だけどギルドに対する嫌味なら耐えられるだろうか。 フードの下に隠れた男の眼力に負けないようには目に力を込めて次の言葉を待っていた。 沈黙を先に破ったのは男の方だった。 「なかなか、てめぇもやるじゃねぇか」 男の口元には笑みが浮かべられ、賞賛の言葉がかけられた。 そんな言葉が飛び出してくるとは思ってもみなかったは目を白黒させて 自分の耳がどこかおかしくなってしまったのだろうかと疑った。 「なんだよ」 何の反応も示さないにイラついたのか、先ほどの笑みは消え 逆に怒ったような乱暴な言葉の調子で男が返す 「あ、その ありがとうございます。まさか、褒められるなんて思ってなくて」 「だが覚えておけ、次に奴らが来たときには俺様が狩る。アレは我々の獲物だ」 まさに捨て台詞といった感じに男はその言葉を最後に荷台から離れ、引き続き護衛の為のポジションに戻っていく。 いまだに先ほどの男の言葉と行動を理解しかねているは頭に手を当てながら過ぎ去っていく外の景色を眺めていた。 |